北海道の思い出を3Dプリンターで形に
3Dプリンターでの造形にも少しずつ慣れてきた頃、北海道ツーリングで訪れた思い出の場所を立体模型として制作していました。
旅先で見た景色を形として残せるのは、3Dプリンターならではの楽しみです。
宗谷岬
日本最北端の地「宗谷岬」をミニチュア化しました。

巨大なカニの爪(紋別市)
オホーツク海沿岸のシンボルとして有名な、紋別市の「巨大なカニの爪」も制作しました。

五稜郭と五稜郭タワー
函館の人気観光地である五稜郭と五稜郭タワーも3Dモデルとして再現しました。

円形校舎との出会い
2025年春頃からは日本各地に現存・保存されている「円形校舎」に興味を持ち、3DCGによるモデリングを始めました。
独特な形状を持つ円形校舎は現在では非常に貴重な建築物となっており、どれも個性的で魅力があります。
旧絵鞆小学校(北海道室蘭市)

朝日小学校(三重県)

沼東小学校(北海道美唄市)

石狩小学校(北海道石狩市)

これらをモデリングする中で、実際に3Dプリンターで作品として仕上げたのは江別第三小学校とキーホルダーとしてデザインした旧絵鞆小学校でした。


再び始まった旧絵鞆小学校プロジェクト
しばらく円形校舎から離れていましたが、数日前にテレビの旅番組で旧絵鞆小学校が紹介されているのを見てもう一度制作してみたいという気持ちが湧いてきました。
旧絵鞆小学校は児童数の減少により2015年に閉校となりましたが、現在も保存活動を続けてくださっている有志の皆さんの努力によって週末や夏休みには一般公開されています
また、この学校は北海道室蘭市出身の俳優安田顕さんの母校としても知られています。
そこで保存活動に携わっている方へご連絡し、以前制作したキーホルダーを寄贈したいと相談したところ快く受け取っていただけるとのご返事をいただきました。
せっかくお送りするならキーホルダーだけではなくより精密なジオラマも一緒に制作してお届けしようと考え、本格的な制作をスタートしました。
まずは3DCGでモデリング
最初に3DCGソフトで旧絵鞆小学校をモデリングしていきます。

実際に現地を訪れたことはまだないため制作の頼りになるのはインターネット上に公開されている写真や資料です。
できる限り多くの画像を参考にしながら、建物の形状を再現していきました。

モデリングができたところで、まずは試作品を3Dプリンターで印刷します。
画面上では気付きにくい部分も、実際に立体になることで改善点が見えてきます。

こちらは授業塔屋上の手すり部分です。
細かなパーツですが、多色印刷に対応した3Dプリンターを使いアイボリーの校舎とグレーの屋上を同時にプリントしています。

この段階では、まだ体育館塔の屋根は取り付けていません。

試作品が完成
試作品が完成しました。
ここから実際の写真と見比べながら形状やバランス、細かなディテールを一つひとつ確認して修正していきます。
まず気になったのは、連結塔が校庭側へ少し出っ張り過ぎていることでした。

校門側は資料となる写真が少なく、全体的に少しのっぺりとした印象になっています。
この部分はさらに写真を見比べながらディテールを追加していくことにしました。
また、体育館塔と連結部分の造形も実物とは異なっているようなので、このあたりも修正していきます。

試作品から得られた情報をもとに3DCGデータを修正し、本番用の作品を制作していきます。
体育館塔の最上階は下の階よりも外側へせり出した構造になっています。
この形状を一体で3Dプリントすると下側が乱れてしまい仕上がりが悪くなるため、最上階だけを別パーツとして分割して印刷することにしました。

ジオラマベースの制作
展示する際はホコリや破損を防ぐクリアケースへ収納する予定です。
そのため、ケースのサイズに合わせた専用ベースを3Dプリントし、その上に地面を作っていきます。
一般的なジオラマ制作では建物を先に固定してから砂利や地面素材を施工します。
しかしその方法では建物の裾に砂利が付着してしまい美しく仕上がりません。
そこで今回は、校舎の底面とまったく同じ形状の薄いダミープレートを作成し、それを仮置きしてから地面を制作する方法を採用しました。
これなら建物を取り付ける部分だけがきれいに残ります。

木工用ボンドを塗布したあと、細かな砂利を全体へ均一に撒いていきます。
砂利を軽く手で押さえながら密着させ、このまましっかり乾燥させます。

校舎のウェザリング加工
ベースが乾燥する間に校舎のウェザリングを行います。
ウェザリングとは建物が長年風雨にさらされてきた質感や汚れを表現する模型技法です。
私は塗料ではなくタミヤの「ウェザリングマスター」を使用しています。
実際の建物写真を参考にしながら、黒・赤茶・焦げ茶・薄茶などを使い分け自然な経年変化を表現していきます。

もし色を付けすぎてしまった場合でも心配ありません。

歯ブラシで軽くこするだけで自然に色を落とすことができるので濃淡を調整しながら仕上げていきます。

ウェザリング前後を比較すると違いは一目瞭然です。
上の校舎はプラスチックそのままの新品らしい印象ですが、
下の校舎は長い年月を経た建物ならではの落ち着いた雰囲気が感じられるようになりました。
模型はほんの少し汚しを加えるだけでぐっと実物らしさが増します。

体育館内部には行事で使用されるステージも再現してみました。
完成すると屋根で見えなくなってしまう部分ですが、見えないところまで作り込むのも模型制作の楽しみのひとつです。
バスケットゴールも制作しようか迷いましたが完成後にはほとんど見えなくなるため今回は見送りました。

草木を加えて校舎周辺の風景を再現
一晩かけてベースの砂利がしっかり乾燥したところで校舎の周囲に生えていた草を再現していきます。
実際の写真を見比べながら、草が生えていた場所を確認し、緑色のパウダーを木工用ボンドで接着していきました。

さらに草の上に低木が生えている場所には情景模型用のグリーンスポンジを貼り付けます。
高さやボリュームが加わることでより立体感のある景観になっていきます。

水溶きボンドで情景を固定する
草やスポンジを貼り終えたら十分に乾燥させたあとで全体を水溶きボンドで固定します。
これにより砂利やパウダー、スポンジが長期間剥がれ落ちることを防ぐことができます。
木工用ボンドを水で約3倍に薄めダマがなくなるまでよくかき混ぜます。
最後に台所用洗剤を3~4滴加え、泡立てないように静かに混ぜます。
洗剤を加える理由は表面張力を弱めるためです。
そのままでは水滴になってしまうボンド液が砂利や草の間へスッと染み込むようになります。

スポイトでゆっくりと全体へ流し込み、内部まで十分浸透させます。
完全に乾燥するまで最低でも一晩はそのまま置いておきます。

校舎とベースを組み合わせる
ベースが完成したらいよいよ校舎を接着します。
ここまで別々に制作してきた建物と地面が一体となり作品らしい姿が見えてきました。

さらに写真を確認すると校庭周辺にはピンク色の花が咲いた低木があることに気付きました。
この小さなアクセントも再現してみます。
ほんのわずかな色付けなので筆やパレットは使いません。
紙の上で赤と白の塗料を爪楊枝を使って混ぜ合わせ、先端に少量だけ付けてスポンジの上へ軽く点々とのせていきます。
このような細かな作業ですが完成したときの雰囲気が大きく変わるため模型制作ではとても重要な工程です。

校舎とベースが完成
これで校舎とベースが完成しました。
校庭側の端には、校門脇に建っていた学校名入りの柱も再現しています。
小さなパーツですが作品全体の雰囲気を引き締めるアクセントになりました。
また、本番作品だけでなくせっかく制作した試作品も最後まで仕上げています。
細部を見比べると修正した部分の違いもよく分かります。


人物を配置して学校に命を吹き込む
これでストラクチャー(校舎)のジオラマとしては完成ですが、学校には子どもたちや見学に訪れた人がいたほうがより生き生きとした作品になります。
そこで以前3Dモデリングして制作しておいた人物データを再び3Dプリントして使用することにしました。
今回のジオラマは、円形校舎の直径が約30m、模型では約5.5cmとなるため縮尺はおよそ1/550です。
この縮尺で子どもの身長を再現すると約0.3mmしかなくほとんど見えなくなってしまいます。
そのため厳密な縮尺ではなく雰囲気を重視し、鉄道模型などで一般的な1/150スケールの人物を配置しました。
模型ではこのような「見た目の楽しさ」を優先する表現もよく行われます。

人物は校庭側、校門側そして屋上にも配置しました。
ほんの数人加わるだけですが、不思議と校舎に活気が生まれ、子どもたちの笑い声が聞こえてきそうな雰囲気になりました。


展示ケースへ収納
完成したジオラマは横幅約15cmのクリアケースへ収納します。
片手で持てるコンパクトなサイズですが細かなディテールをできる限り詰め込みました。

煙突や人物など繊細なパーツが多いため、展示ケースはホコリ対策だけでなく輸送中や展示中の破損防止にも役立ちます。

新デザインのキーホルダーも制作
昨年春に制作した旧絵鞆小学校のキーホルダーは白一色のものと赤い屋根仕様の2種類だけでした。
今回はジオラマ制作で完成した最新データをもとに縮尺を調整し屋根の色も赤とグレーの2種類を用意するなど、デザインを一新した新バージョンも制作しました。

旧絵鞆小学校へお届けします
今回完成したジオラマ2作品と各種キーホルダーは、7月後半に予定されている旧絵鞆小学校の一般公開日に合わせてお届けできるよう発送する予定です。
2015年に閉校となった旧絵鞆小学校ですが、保存活動を続けてくださっている皆さまのおかげで今でも多くの方が校舎を見学することができます。
この小さなジオラマやキーホルダーがその活動の一助となり、訪れた方々に楽しんでいただければ制作者としてこれ以上うれしいことはありません。
また、この記事をご覧いただいたことをきっかけに旧絵鞆小学校の魅力や円形校舎という貴重な建築文化に興味を持っていただけたなら幸いです。
おわりに
3Dプリンターを使えば、思い出の風景や歴史ある建物を立体として残すことができます。
しかし、本当に作品らしく仕上げるためにはモデリングだけでなく、ウェザリングや情景制作、人物配置など、さまざまな工程が欠かせません。
今回の旧絵鞆小学校ジオラマも多くの写真を参考にしながら細部までこだわって制作しました。
完成した作品が保存活動のお役に立ち、多くの見学者の皆さまにご覧いただければ大変うれしく思います。
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